「いらっしゃいませ」の明るい声。
妻と「今日は肉を食べよう」とケンタッキーを食べる予定だったが、たまには違うところにしてみようと、初めての店を選んだ。
流暢なQRコード注文の説明が印象的だった。
最近はスマホ注文が増えているので、操作に戸惑うことがあって不安だったので丁寧に教えてくれるのは助かる。
油で汚れないようにと、かばんに布を掛けてくれた。とても行き届いた気遣いに嬉しくなった。
私は味覚音痴
私はおすすめの牛肉を注文。
どこに行っても、とりあえずおすすめを頼んでみるのが基本だ。
すすめるくらいだから、変なものは出さないだろうという単純思考である。
妻は鶏肉、おすすめとか無視をするタイプで、私とは真逆。
「これおすすめだって」と指を差しても、妻は違うところを見ていて「おすすめだから、食べたら」と言えば、「おすすめとかどうでもいい、私はこれが食べたい」と強めに言われたことを思い出した。
先にやってきたのは、サラダとスープ。
サラダは野菜の味。スープはコクがあって、おいしかった。
どこかのファミレスとは違う、チェーン店の味はだいたい決まっていて想像通りの味がする。しかし、ここのスープは違う、ちゃんと旨味がある。
(注意、私の味覚はジャンクフードと、お菓子で作られた舌です)
スープを味わっていると、おすすめの肉が鉄板の上でパチパチしながらやってきた。肉とたまねぎの香りに胃袋が広がる。
おいしい香りでライトに照らされる湯気の粒が、さらに胃袋を広げる。
「早くしてくれ」と、お腹が鳴った。
たまねぎの香りと肉の香りから、箸が止まらないと確信した。
鉄板にはソースが滴り、音を立てている。
妻の目が怖かった
猫舌であっても今すぐに食べたい、熱々の肉をほおばり、噛みしめる。
食べた肉はパサパサモソモソで、水で流し込んだ。
おいしくない。
胃袋は元の大きさに戻っていた。
ご飯を食べに行ったのに、おいしくないものを出されたとき、お金を払いたくない気持ちが強くなる。
味は良かったが、「注文は?」「飲み物は?」とタメ口だった店でも同じ気持ちになったことを思い出した。
ここの肉屋は「接客の良さ」だけだなと、パサパサの肉を噛み締めていた。
接客が良いだけで行く理由になるだろうか……と食べながら考えていた。
おいしくないものを食べるときは、箸が進まない。
ばあちゃんの家で出てくる、カラフルなビスケットを思い出した。
危険な色だなと思って見ていた、白はいいとして、ピンク、黄色、緑、食べるのに勇気がいる色だ。
もしかしたら牛肉がおいしくなかっただけで、他はおいしいのかもしれないと思い、
鶏肉をひとくちもらった。
妻を見ると「まずい、自分で焼いた方がうまい」と、同意見だった。
変なものは出さないだろうという考えは、やめた。
妻のように好きなものを注文しようとも思わなかった。
注文をしないことに決めた店になった。
センマイ さしみが一番/江戸幕府の「格別な接待」 目次から魅力的だ。
焼肉が食べたくなる一冊。